東京高等裁判所 平成元年(ネ)575号 判決 1990年11月29日
控訴人 三里塚芝山連合空港反対同盟
右代表者事務局長 北原鉱治
控訴人 石丸修三
控訴人 篠恵子
右訴訟代理人弁護士 葉山岳夫
同 一瀬敬一郎
同 大口昭彦
同 辻惠
同 古川勞
被控訴人 新東京国際空港公団
右代表者総裁 松井和治
右訴訟代理人弁護士 今井文雄
同 真智稔
同 和田衛
主文
一 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
二 前項の部分につき本件を千葉地方裁判所に差し戻す。
事実
第一当事者の求める裁判
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2(一) 主位的申立て
主文第二項と同旨
(二) 予備的申立て
(1) 被控訴人は、控訴人らに対し、原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の引渡しをせよ。
(2) 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
(3) 仮執行の宣言
二 被控訴人
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
3 担保を条件とする仮執行の免脱宣言
第二当事者の主張
一 主位的申立てについての双方の主張
1 控訴人ら
(一) 原審においては、本件(原審昭和六三年(ワ)第四八号事件)につき二回の口頭弁論期日が、原審同年(ワ)第三五九号事件(被控訴人提訴、ただし、不服申立てはない。)につき一回の口頭弁論期日が、それぞれ開かれた後、昭和六三年七月二七日の口頭弁論期日において両事件の弁論が併合された上、弁論が終結され、控訴人らの弁論再開申請を無視して言渡期日が指定された。その間、各事件につき訴状・答弁書及び控訴人ら、被控訴人の各一通の訴状・答弁書の内容の補充の準備書面の陳述がされただけであり、立証としては三五九号事件につき被控訴人が乙第一号証(本件土地の登記簿謄本)を提出しただけである。
原審における弁論終結は、右のとおり、実質的には、訴状、答弁書の陳述がされただけで、証拠調べが事実上皆無のままされたものである。
(二) 以上のような原審の審理は、控訴人らが原審において被控訴人の主張に反論し、これを立証する機会を何らの根拠もなく奪うものであり、民事訴訟の根幹である弁論主義と本質的に矛盾し、民訴法一八二条に違反するものである。
原審における答弁の終結は、その時期、経緯、態様等からして、「訴訟が判決を為すに熟」したとする余地のない段階において、控訴人らが表明していた主張と当然にこれに引き続き予定されていた立証の機会を奪うために敢行されたものであり、要件を欠く違法な終結というほかはない。
(三) また、後記のとおり、双方の事実主張の間には根本的な対立点があり、証拠調べが不可欠であることは明らかであるから、事実上一切の証拠調べを欠く原判決の違法性は明白というほかはない。
(四) よって、原判決による控訴人らの三審制の利益剥奪を修復し原状回復を図るために本件を原審に差し戻すべきである。
2 被控訴人
原判決の法理によれば、当事者の地位、本件土地上に後記第一、第二建物が昭和六二年一一月二四日に存在した事実、右各建物が同月二七日に後記本件処分に基づき撤去された事実、以後被控訴人が本件土地を占有している事実は当事者間に争いがないという事実関係のもとにおいては、控訴人らの請求自体理由がないことに帰着するから、もはや証拠調べの必要はないのであって、控訴人らの審級の利益を奪ったことにはならない。したがって、控訴人らの主張は明らかに失当である。
二 請求原因
1 当事者
(一) 控訴人三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「控訴人同盟」という。)は、新東京国際空港建設に反対する空港予定地内及び周辺騒音地域の農民その他の住民が反対運動を展開するために昭和四一年七月一〇日に結成した法人格なき社団である。
(二) 控訴人石丸修三(以下「控訴人石丸」という。)及び控訴人篠恵子(以下「控訴人篠」という。)は、昭和五二年七月からその肩書住所に居住し、控訴人同盟の運動を支援してきたものである。
(三) 被控訴人は、新東京国際空港公団法に基づいて設立された法人である。
2 控訴人らの占有状況
(一)(1) 控訴人同盟は、昭和四一年七月ころ、反対運動の一環として、いわゆる「一坪共有」運動を展開することを決定し、同盟員に対しその用地の提供を呼びかけたところ、当時同盟員であった高橋七郎がこれに応えて本件土地を控訴人同盟に贈与した。
なお、その際、控訴人同盟と高橋との間で、空港反対運動の最終的終了を停止条件とする再贈与予約契約が締結されている。
(2) 控訴人同盟は、同年八月二七日、小川国彦ほか三八名の了承の下に同人らに対する所有権移転登記手続をした。
なお、右登記は全くの名義上のものであって、控訴人同盟と同人らとの間に実際に本件土地の所有権を移転する旨の合意がされたわけではない。
(3) 高橋は、当時、本件土地上に居宅、作業小屋その他の工作物を所有し、これに居住して、本件土地を使用していたが、前記贈与と同時に、控訴人同盟との間で、本件土地につき建物所有を目的とし期限の定めのない使用貸借契約を結んだ。
(4) 高橋は、昭和五二年一月ころ、本件土地上の一切の建物、工作物を撤去して退去し、前記使用貸借を解約するとともに、本件土地を控訴人同盟に明け渡した。これによって、控訴人同盟は、本件土地を直接占有することとなった。
(二) 控訴人同盟は、同年七月ころ、本件土地上に原判決別紙建物等配置図(以下「建物配置図」という。)中の「プレハブ小屋(二階建)」とあるプレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺二階建、面積約九九平方メートルの建物(以下「第一建物」という。)を建設した。
(三) 控訴人同盟は、第一建物完成直後、控訴人石丸と同篠に第一建物の管理を委ね、以後両名は、控訴人同盟と共同して本件土地を直接占有した。
(四) 更に、控訴人同盟は、昭和六二年一月、本件土地上に、建物配置図中の「同盟監視小屋」とあるプレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺、面積約一九・八平方メートルの建物(以下「第二建物」という。)を建設し、以後これを占有していた。
(五) 以上の経緯によって、昭和六二年一一月二四日の時点において、控訴人同盟は、本件土地上に第一、第二建物を所有して本件土地を占有し、控訴人石丸と同篠は、第一建物を共同占有することに伴って本件土地を占有していた。
3 被控訴人の本件土地占有侵奪
(一) 被控訴人は、千葉県警察(以下「千葉県警」という。)及び運輸大臣と共謀共同して、違法な捜査活動及び新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「緊急措置法」という。)上の除去措置を手段として、以下のとおり、控訴人らの本件土地占有を暴力をもって奪った。
(1) 被控訴人の本件土地占有に至る事実経過は次のとおりである。
ア 千葉県警は、昭和六二年一一月二四日午前六時四〇分ころ、数百人の機動隊員とユンボ、クレーン車、放水車、はしご積トラック等多数の車両を動員して本件土地を取り囲み、本件土地上の第一、第二建物その他の工作物の物理的破壊、第一建物にいた数名の者の逮捕活動を開始した。これは、同月一六日の投石事件についての捜索差押えを名目としていたが、実際は、その態様から見て、本件土地上の建物、工作物の破壊を目的としたものであった。
イ 千葉県警は、同月二五、二六日にも右攻撃を続行し、二五日に二名、二六日に五名をそれぞれ逮捕するとともに、二六日までに第一、第二建物その他の工作物を破壊した。また、二六日午後二時ころから、本件土地の検証を開始した。
運輸大臣石原慎太郎は、二六日夜、緊急措置法三条八項の規定に基づき本件土地内の工作物除去措置決定(以下「本件処分」という。)をした。
ウ 運輸大臣の委嘱に基づき、被控訴人は、同月二七日、千葉県警の検証終了後、本件土地上の建物、櫓等の撤去、自動車三台の搬出、竹木の伐採、菜園の破壊等を行うとともに、本件土地の周囲に有刺鉄線を張りめぐらして、本件土地の実力支配を開始した。
(2) 以上によれば、千葉県警の「捜査活動」、運輸大臣の本件処分、被控訴人の本件土地占有が、時間的内容的に有機的関連性を有していることは自明である。すなわち、これらの各行為は、千葉県警の本件土地制圧、工作物の破壊、その状態を利用しての運輸大臣の本件処分、この決定による本件土地制圧の継続及び工作物破壊作業の被控訴人への引継ぎ、被控訴人による本件土地占有の取得という客観的関連性を有しているのであり、また、時間的接着性、相互連関の密接性等からして、これが事前に計画され、予定されていたことも、確実な事柄なのである。千葉県警の「捜査活動」及び運輸大臣の本件処分は、いずれも被控訴人の本件土地占有の実現に向けた合目的的手段として予定され実現されたものであり、被控訴人の本件土地占有は、千葉県警、運輸大臣と被控訴人が一体となった共同不法行為ないしその結果にほかならない。
刑事手続及び行政処分を被控訴人の私法上の利益実現手段に転用・流用することは違法であり、違法行為の結果実現された被控訴人の本件土地占有は法的保護に値しない。すなわち、前記二四日から二七日にかけて本件土地上において現出した事態は、行政権力が刑事手続や「新東京国際空港の安全確保」を名目に掲げながら、被控訴人の私法上の利益の実現を唯一の目的として、控訴人らの権利をむき出しの暴力によって踏みにじったというものであり、著しく違法性を帯びてもはや社会的に公認された行政処分と認めるに耐えない、一見極めて明白に違法な事態であったのである。
(二) あるいは、被控訴人は、昭和六二年一一月二七日の本件処分実施の際、本件土地上において、古自動車三台の搬出、菜園の破壊、竹木の伐採その他明らかに右処分に含まれない作業を行うとともに、本件土地の周囲に有刺鉄線を張りめぐらす等して本件土地の実力支配を開始した。その結果、被控訴人は、遅くとも、右処分の実施終了時である同日午後六時三〇分ころまでに、控訴人らの意思に反して本件土地の占有を奪った。
(三) いずれにしても、控訴人らは、何人に対しても本件土地の占有を自らの意思に基づいて移転したことはなく、控訴人らの占有喪失をもたらすような適法な法的手続もとられていない。
よって、控訴人らは、被控訴人に対し、占有権に基づき、本件土地の引渡しを求める。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1について
(一) (一)のうち、控訴人同盟が新東京国際空港の建設に対する反対運動をしている法人格なき社団であることは認め、その余は否認する。
(二) (二)は知らない。
(三) (三)は認める。
2 同2について
(一) (一)は否認する。
(二) (二)のうち、昭和五二年七月ころ本件土地上にプレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺二階建建物が建築されたことは認め、その余は知らない。
(三) (三)のうち、控訴人石丸及び同篠が本件土地を直接占有していたことは否認し、その余は知らない。
(四) (四)のうち、昭和六二年一月ころ本件土地上にプレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺建物が建築されたことは認め、その余は知らない。
(五) (五)の主張は争う。
3 同3について
(一)(1) (一)(1) アのうち、控訴人ら主張の日に投石事件があったこと、千葉県警が本件土地において捜索差押令状に基づき捜索を行おうとしたこと、本件土地上の工作物の一部を除去したことは認めるが、その余は否認する。
イのうち、千葉県警が控訴人ら主張のとおりの逮捕行為をしたこと、検証に着手したこと及び運輸大臣が二六日に本件処分をしたことは認め、その余は否認する。
ウのうち、千葉県警の検証が前日に引き続き行われたこと、運輸大臣の命により被控訴人が本件土地上の工作物の除去作業をしたこと、右作業をするため古自動車三台を搬出したこと、被控訴人が本件土地を取り囲む被控訴人所有地に柵を設置して本件土地の占有を取得したことは認め、その余は否認する。検証は午後二時すぎまで行われ、運輸省職員及び被控訴人職員は、午前九時から工作物の除去作業を開始し、同日午後六時三五分これを終了したものである。
(2) (2) の主張は否認し、争う。被控訴人の本件土地の占有は、千葉県警の捜査活動や本件処分とは別個独立にされたものである。
(二) (二)のうち、被控訴人が本件処分実施に際し、古自動車三台を搬出したこと、本件土地の周囲に有刺鉄線を張りめぐらしたことは認め、その余は否認する。除去作業開始時点においては、本件土地上に、菜園はもちろん竹木に類するものも存在していなかった。
被控訴人は、特定の者の占有下にない更地状態(本件処分の執行が終了した前記午後六時三五分には、何らの物件も存在していなかった。)の本件土地について、再び不法に反対運動の拠点化されることを防止するため、本件土地の約九四パーセントの共有持分を有する被控訴人の正当な権限の行使として、本件土地を取り囲む被控訴人所有地に柵を設置する作業を行ったものである。右設置作業は、本件除去作業の終了前から行われていたが、本件除去作業の終了した午後六時三五分にはまだ開口部が存在し、本件土地は囲繞されていなかった。したがって、被控訴人が本件土地の占有を原始取得したのは、右柵設置作業を完了し、その出入口に施錠することによって本件土地を囲繞した同日午後七時三〇分ころである。
(三) (三)は争う。控訴人同盟は、本件土地につき共有持分を有するものでも、何らかの占有権原を有するものでもなく、単に事実上占有していたにすぎず、また、その余の控訴人らは、控訴人ら主張の事実を前提にしても本件土地につき独立の占有を有するものとはいえないところ、本件土地上の建物等は、本件処分に基づき昭和六二年一一月二七日に適法に除去され、本件土地上に存在しなくなったのであるから、元々本件に対する何らの占有権原もなく、単に右建物等を所有・管理することによってのみ本件土地を占有していた控訴人らの占有もその時点で消滅したことが明らかである。
第三証拠関係<省略>
理由
一 控訴人同盟が新東京国際空港の建設の反対運動を行っている法人格なき社団であり、被控訴人が新東京国際空港公団法に基づき設立された法人であること、昭和六二年一一月二四日当時本件土地上に第一、第二建物が存在し、同月二七日に本件処分の実施により最終的に右建物が撤去されたこと及び同日以後被控訴人が本件土地を占有していることは、当時者間に争いがない。
二 原審は、右事実関係を前提に、最高裁昭和三五年(オ)第一三四号同三八年一月二五日第二小法廷判決(民集一七巻一号四一頁)を引用して、占有回収の訴えは物の占有者が他人の私力によって占有を奪われた場合に、その奪った者からその物の返還を要求することを認めた制度であるから、権限のある国家機関の行政処分により占有が強制的に解かれた場合には、その行政処分が著しく違法性を帯びている場合を除き、占有回収の訴えによってその物の返還を請求することは許されないものと解するを相当とするとしたうえ、仮に控訴人らが昭和六二年一一月二四日の時点で本件土地を占有していたとしても、同月二七日に緊急措置法三条八項の規定に基づく運輸大臣の本件処分といういわば権限のある国家機関の処分により控訴人らの占有が強制的に解かれたものと認められ、右処分が一見してわかる程の異常かつ強度の違法性を有するとは認められないから、控訴人らの本件占有回収の訴えは許されないと判断した。
三 しかし、原審の右判断は是認することができない。
原審の引用する判例の事案は、室明渡の強制執行によってその明渡しをさせられた者から、明渡しを受けた者に対する、当該室の占有回収の訴えに関するものであり、物の占有者に対する国家機関の執行行為自体にその者の物の占有を強制的に解く効力が認められている場合のものである。
ところで、緊急措置法は、新東京国際空港の開港を四日後に控えた昭和五三年三月二六日、過激派集団により空港管制塔が占拠され、管制機類が破壊された事件を契機として、過激派の出撃拠点であるいわゆる団結小屋の撤去に法的根拠を与えるために立法されたものであり、同法一条に規定されているように、同空港及びその周辺における航空機の航行を妨害する暴力主義的破壊活動を防止するため、その活動の用に供される工作物の使用の禁止等の措置を定め、同空港及びその機能に関連する施設の管理等の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することを目的とするものである。そして、緊急措置法三条一項は、運輸大臣において、二条三項に規定する規制区域内に所在する建築物その他の工作物が、暴力主義的破壊活動者によって、多数の者の集会の用、爆発物・火炎びん等の製造若しくは保管の場所の用等に供され、又は供されるおそれがあると認めるときは、当該工作物の所有者等に対して、期限を付して、当該工作物をその用に供することを禁止する(その使用自体を禁止するものではない。)ことを命ずることができるものとし、更に、本件処分の根拠規定である三条八項は、同一項の禁止命令にかかる工作物が当該禁止命令に違反して前記の用に供されている場合においては、同条八項所定の要件を満たす場合に限って、当該工作物を除去することができるものとしている(なお、除去により損失を受けた者に対しては、通常生ずべき損失を補償するものとされている(四条一項))。
しかし、右規定は、前記のような異常な事態に対処するため、厳格な要件のもとに、禁止命令違反の状態が生じた場合に、直接強制として工作物の除去-取壊しができることを認めたものにすぎない。そして、右措置を講ずるに際し、必要な限度において、工作物の所在する土地等を使用し又はその使用を制限することができるにとどまり(三条九項)、他に工作物の敷地に関し何ら処分をする権限を認めた規定はなく、しかも右措置を講ずるについて何らの手続を踏むことも要求されていないのであるから、同条八項の規定をもって、工作物の除去より更に私権の制限の大きい工作物の所在する土地の占有を解く権限までを運輸大臣に認めたものと解することはできないし(<証拠>によっても、運輸大臣は、本件処分として本件土地上の第一、第二建物等の工作物の除去の措置を決定し、その実施を被控訴人に委嘱したものにすぎず、本件土地の占有の解除措置までを決定したものとは認められない。)、また運輸大臣の工作物の除去措置自体に工作物の所在する土地の占有を解く効力があるものと解することもできない。
したがって、控訴人らが第一、第二建物等の工作物を所有することによってのみ本件土地を占有していた場合に(本件においてそのように認めることができるかどうかは、控訴人らの本件土地に対する占有の権原、占有開始の経緯、その後の占有状況等を総合的に考慮して判断すべきものであって、その点の審理を経ていない現段階においてはその断定をすることができない。)、本件処分の実施により第一、第二建物等の工作物が除去された結果として、控訴人らが本件土地に対する占有を失うに至ることがあるのは格別、本件処分の実施自体によって、控訴人らの本件土地に対する占有が強制的に解かれたものと解する余地はなく、第一、第二建物に対する本件処分が実施されたことを理由に、控訴人らが被控訴人に対して本件占有回収の訴えによって右建物の所在していた本件土地の返還を請求することが許されないということはできない。
四 そうすると、右と異なる見解のもとに、本件処分が実施されたことを理由に控訴人らの本件土地の占有回収の訴えを排斥した(原判決は請求を棄却しているが、その実質は訴えを却下したものにほかならないというべきである。)原判決中控訴人ら敗訴部分は、失当であって取消しを免れない。そして、本件占有回収の訴えについては、なお控訴人らの本件土地占有の有無、被控訴人の占有侵奪の成否等の争点につき審理し、請求の当否について判断する必要があるところ、原審においては右の点について全く審理判断を経ていないから、更に弁論を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって、民訴法三八九条一項に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 赤塚信雄 裁判官 桐ヶ谷敬三)